愛は満ちる月のように
「謝らなくてもいい。ただし、僕の忠告を無視したのは君だ」


表情の曇る美月に、悠はウエイトレスが手にしたトレイを見ながら言った。


「お待たせいたしました」


そう言ってウエイトレスが美月の前に置いたのは……大きなイチゴの乗ったショートケーキ。


「ユ、ユウさん、知ってたのねっ」

「知る訳ないだろう。ただ、店先のショーケースに、ソイツがたくさん並んでいたのが目に入っただけさ」


美月にすれば、メニューの写真がガトーショコラだったため、思い込んでしまったのだろう。

悠は美月から視線を逸らし、無言でコーヒーを口に運ぶ。そんな悠を恨めしそうに睨みつつ、そっとイチゴを避けようとした。


「好き嫌いはダメだよ、美月ちゃん」


悠の言葉に美月の手が止まる。

そのとき、悠はサッと手を伸ばし、イチゴを取り自分の口に放り込んだ。


「お、お礼なんて、言いませんからっ」


拗ねたふりをする美月の横顔に、思わず笑顔になる悠だった。


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