愛は満ちる月のように

(4)奪わない恋もある

「上手くいったみたいじゃないか。おめでとう」


発泡酒を差し出され、悠はそれを受け取りながら、那智の言葉に答えた。


「いや、そんな……めでたくはない、というか……」

「なんだ。まだ、離婚するとか言ってるのか? 往生際の悪い男だな」


悠は黙ったままプルトップを開け、口に運んだ。
 

美月は那智になんと言ったのだろう。これではまるで、悠から離婚を言い出したかのようだ。

離婚して欲しいと言ったのは美月のほうである。悠はこれまでどおりの関係を……。


(……これまでどおり?)


これまでと同じでいられるはずがない。そんな思いを自覚しながら、悠は従業員の女性たちと楽しそうに笑う美月を見ていた。


桜の下にブルーシートを広げ、男女六人ずつの従業員が寛いだ表情で楽しんでいる。みんな二十代で仕事場の雰囲気はすこぶるよさそうだ。

面識はあるものの、悠自身はそれほど親しい付き合いをしてきたわけではない。

那智にしてもそうだ。彼から声をかけられ、色々誘われなければ、友だち付き合いはなかっただろう。


そんな中、ひと際悠の視線を惹くのは、やはり美月だった。


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