愛は満ちる月のように
「一条、調子に乗って失礼なことを言うなよ。来生さんにはちゃんと恋人がいるんだから。それと念のため……奥さんが二メートルほど離れた場所から、君を見ていることを忘れるな」


釘を刺すような那智の声だった。


言われて、悠は桜の下に視線を向ける。

すると、こちらを見ていた様子の美月がスッと目を逸らせた。彼女は横を向きながらも、どうやら悠が茉莉子に向ける笑顔が気になるようだ。

それに気づくと、彼自身どうにも落ちつかなくなる。


何かを察したのかどうかわからないが、茉莉子はバネ仕掛けのように勢いよく頭を下げ、従業員たちの輪に加わっていった。



「聖人ねぇ……僕には狙ってるように見えるんだけどなぁ」


茉莉子はストレートのボブ、あまり手の入っていない感じのするサラサラの黒髪をしていた。紺色のスーツを着て、それが制服を思わせるデザインのせいかもしれない。二十歳前後……女子高生と言っても通用する外見だ。


「未成年ならさすがにまずいか……。那智さん幾つでしたっけ?」

「お前のふたつ上だよ。ところで、美月さんの歳は?」

「……たしか、今年の十月で二十四歳だったと」

「じゃあ同じ歳だ。来生さんもついこの間二十三歳になったと言ってたから」


那智の言葉に驚いた。


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