愛は満ちる月のように
今は美月と隣り合って座り、店で用意した料理を一緒に食べている。

体型は、バストを中心にふた回りほど小さい……というのは大袈裟か。だが、骨格がしっかりしていて背の高い美月に比べ、あまりにも頼りなく感じる。

化粧は、むしろ茉莉子のほうがしっかりしているみたいだが、美月のほうが際立って見えた。
 

「一年以上付き合ってる恋人がいる。彼女は結婚まで考えているんだ。いい子だから、幸せになって欲しいんだけどね」


那智の言葉には含みがあった。


「それって……さっき口にした“中山”って奴?」

「耳がいいな。いや、勘がいい、と言うべきかな」


苦笑いを浮かべて那智は差し入れの缶ビールを口に運んだ。


「ということは……彼女のほうが考えてるだけで、結婚も婚約もしてないんだろう? だったら、ごちゃごちゃ考える前に、奪ってみればいい」


数日前に言われた同じセリフを那智に返した。


あの夜はしたたかに酔っていて、自分の話した内容はよく覚えていないが、言われた言葉はしっかりと覚えている。人間の記憶は意外と都合のいいようにできているらしい。

彼は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、


「私は何も奪わない。でもそれは、奪えないこととは違う。間違えるなよ、一条」


余裕綽々で笑われ、ヤケクソ気味に手にした発泡酒を飲み干す悠だった。


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