愛は満ちる月のように

(5)可愛い酔っ払い

(どうして、他のひとにはあんな笑顔を見せるの?)


下の公園でもそうだった。

親しげに悠に近づき、キスするように顔を寄せて笑い合っていた。付き合いがあったらカードなんて渡さない。悠はそんなふうに言ったが……。

この小柄な女性にしてもそうだ。

は人のよさそうな笑顔を見せ、彼女に近づきたいそぶりだった。美月の視線に気づき、諦めたに違いない。

もしこの場に自分という妻がいなければ、悠ならすぐに親しくなったのだろう。


美月の母を思わせる華奢な来生茉莉子という女性に、コントロールできないほどの嫉妬を感じた。



「一条さんには今日初めてお会いしたんですけど……本当に美男美女のご夫婦ですよねぇ。羨ましいです」


茉莉子は勧められた缶ビールを手に美月を見てニッコリと微笑む。

彼女の“羨ましい”は、悠の隣に立つ美月に向けられた言葉だろうか? 

疑問を胸に抱え、美月は曖昧な笑みを返した。


「ハーバード大学をスキップで、なんてスゴイですよねぇ。私なんて、高校出るので精一杯でした」


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