愛は満ちる月のように
それに比べたら、“桐生”は財閥名でもなんでもない。

ただ、故人とはいえ美月の曽祖父、桐生久義の名前を出せば、大概のムリは通ってしまう。今でも桐生の名前には強大な権力が寄り添っていた。それは美月にとってマフィアより性質が悪く、無駄としか思えない。


大したことはない、と言いたくて父の会社名を出したが……。

それが逆に茉莉子の中で、具体的な存在として響いたようだ。


「素敵な結婚式だったんでしょうね……ひょっとして海外ですか?」

「え? ええ……ボストンで」


茉莉子をはじめ周囲の女の子たちは、美月のひと言ひと言に歓声を上げる。

式といっても判事の前で誓い、結婚証明書をもらっただけだ。あとは、日本国内で入籍の手続きを済ませてもらい……。


美月はふと気づくと、はじめて口にした発泡酒を飲み干していた。


(どうして私のことは渋々しか口説いてくれないのに……他の女性には積極的なのかしら。どうして……私の何が気に入らないと言うの?)


美月の中に芽生えた苛立ちはアルコールの勢いを借りて、悠へと向かった。

那智と楽しそうに笑う悠の姿も気に入らない。すべて、自分の悪口を言われているように感じる。


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