愛は満ちる月のように
したたかに酔っていた訳ではない。口にしたことはすべて覚えている。あんな大勢いる場所で、バルコニーでセックスしたと叫び、すぐに抱いてと迫ったのだ。

一条物産の取締役である悠の面目を潰してしまったに違いない。


美月が自分の顔を両手で覆ったとき、悠は彼女の髪を撫でながら額に口づけた。


「十代の君をボストンに残し、結婚指輪で拘束しながら、仕事と称して日本で女遊びを繰り返してきた悪党――」

「……え? それって」


浮気者の夫の本性を知り、離婚まで考え思い悩んでいる。だから少し神経質になっているらしい。

那智は美月を庇うため、悠を悪者にしたようだ。

いや、本当のことを話しただけとも言えるが……。

それには、自分が失礼なことを言って那智の友人の妻を怒らせてしまった。と、青くなっていた茉莉子をなだめるためでもあったという。


「でもそれじゃ、ユウさんが悪く言われるんじゃない?」

「そうだな。君に責任を取ってもらおうか」

「ええ、わかっています。私にできることならなんでも……」


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