愛は満ちる月のように
言い訳ならできる。

教会で式を挙げることもできたが、拒んだのは美月のほうだ。クリスチャンではないが、神の前で偽りの愛を誓うことはできない、と。


遠い目をして教会の屋根を見上げている美月に悠は声をかけた。


「だったら……今度は本当の結婚をして、神の前で誓ったほうがいい。精子バンクなんて使わずに……好きな男の子供を産むのが一番だと思うよ」


(何を余計なことを言ってるんだ。僕が口を出すべきことじゃない。僕なんかが……)


そう思う反面、美月はノーと答えるはずだ、と思い込んでいた。

いや、期待していたちというべきかもしれない。

ところが――。


「そうね、ユウさんのおっしゃるとおりかもしれない。後悔する前に諦めることと、諦めなかったことで間違いを犯したとしても、後悔しないように努力することは違うわよね」


美月は視線を悠に移すと、ふわりと笑った。


「梅や桃が嫌いな訳じゃないわ。ハナミズキでも構わないのかもしれない。ただ、日本を思い出したとき、一番に思い浮かんだ花だから……きっかけは、たったそれだけ。それでも、わたしは桜が好きよ」


そんなふうに言い切れる美月が眩しい。

そして恨めしく、焼け付くような嫉妬を覚えた。


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