愛は満ちる月のように
真は悠の表情に気づかず、笑いながら話し続ける。


「父さんにも相談した。もし、美月ちゃんが認めてくれたら……そして、ちゃんと弁護士資格を取ったら、反対はしないって言ってくれたんだ」


父は企業法専門の法律事務所を開いている。

以前は親友の如月弁護士と共同経営だった。悠が高校生のころ、如月弁護士が民事を扱いたいと希望して分割した。今でも協力しあっており、家族同然の付き合いは変わらないという。

悠が弁護士となり父の事務所を継ぐ予定だったが、彼は家を出てしまった。そのため真が継ぐことに決まり、現在、法科大学院(ロースクール)の二年である。

だが、もし美月がボストンでの生活を続けるとなると……。


「待て、それは……彼女が日本で暮らせるようになったら、ってことか? だったら……」

「いや違う。もし戻れないなら、俺がボストンで暮らすよ」

「そんな……こと、無理だ。父さんの事務所はどうするんだ」

「紫(ゆかり)も法学部に進むって言ってたし、やりたくなければ無理に継がなくてもいいってさ」


そのあっさりした返答に悠は二の句が継げない。

自分勝手に家を出た悠が口を挟むことではないが……。


「だから、兄貴の役目を引き継ぎたいんだ。これからは俺が彼女を守る。いつか彼女が望んでくれたら……本物の結婚にするよ」


どうしても越えられないハードル。それを簡単に飛び越えた弟を見て、やり場のない悔しさに戸惑う悠だった。


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