愛は満ちる月のように
伊勢崎の祖父とは父方の祖父のこと。

祖父は十四年前、藤原の祖母とは離婚した。今はシルバー向けのマンションでひとり暮らしをしている。

父は同居したかったようだが……父の家で藤原の祖母の面倒をみている関係から、伊勢崎の祖父が遠慮をしたらしい。


藤原の祖母は美月にとって天敵だ。

だが、そんな祖母も今年で七十六歳。美月が日本を離れている間に祖母は脳梗塞で倒れ、右半身に麻痺が残った。現在はひとり息子である父が自宅に引き取り同居しているというが、美月にすれば顔を見るだけで何を言われるか恐ろしい。

父が大怪我をしたときも、『母親が疫病神なら娘も同じ』と罵られたことは、今でも忘れられない。


千早会長は父の勤める千早物産のオーナーだ。藤原の縁戚にあたる人物で、美月が産まれる前から父と亡き母が世話になった人だった。

それに加えて、千早会長の孫と美月がまたいとこという関係から、彼女のことも実の孫同然に可愛がってくれた。

父が仕事に復帰してすぐ、千早会長から社長の椅子を譲られ、その直後に心臓を悪くして入院したと聞く。

美月はその話を聞いたとき、見舞いに行けない自分が薄情者に思え、悔しくてならなかった。


「伊勢崎のおじいちゃんも千早のおじいちゃんも元気、春休みにみんなで藤原の本邸でお花見をしたんだ。三月には、奈那子ママのお墓参りも行ったし……」

「え? 伊勢崎のおじい様も?」

「うん、おばあちゃんも一緒にね」


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