愛は満ちる月のように
「……それは、どこのおばあ様?」


美月にはよくわからない。

伊勢崎の祖父が再婚したという話は聞かないし、桐生の祖母はとうに亡くなっている。

小太郎にすれば母、茜の実家、佐伯家の祖母がいるが……。美月の知る限り、小太郎の小学校の入学祝いすら寄越さなかった人間だ。一緒に墓参りに行くだろうか?


「藤原のおばあちゃん。すっごく優しいんだ。僕がテストで何点取っても褒めてくれるんだ」

「…………それは、病気が酷くなったのかしら? 寝たきり、とか?」

「違うって。リハビリして歩けるようになったんだよ。美月姉さんに会ったら最初に謝りたいけど、許してくれないかもしれないって言ってた。僕はお姉さんは優しいからそんなことないって言ったんだけど……。おばあちゃんのこと、怒ってないよね?」


時間をかけて、小太郎は必死で祖母の現状を話してくれた。

どうやら、あの頑なだった祖母の心を変えたのは小太郎らしい。

美月姉弟の家系図はかなり複雑で、美月すら混乱することがある。しかし、それらは小太郎にとっては実にシンプルなものだった。

祖父は祖父、祖母は祖母、血の繋がりも何も関係なく、彼は誰のことも愛して慕った。

思えば、祖母は寂しい人だ。嫌味ごとでも口にして近寄らなければ、誰も彼女に近づこうとしない。身から出た錆、とはいえ……孤独は人の心を腐らせ、狂わせる。


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