愛は満ちる月のように
ガタンとイスが後ろに倒れた。

今度は悠の番だ。驚きのあまり言葉にならない。

目を見開き、彼女の腹部の辺りを凝視する。大きなジャケットもそのためだったのか、と思うと、どうにも落ちつかない。


「違うわ。妊娠してるわけじゃないの。これからのことを言ってるのよ」

「相手は? 父親になる男は決めてるわけか?」

「そうね、候補は……」

「アメリカ人?」

「日本人も含めてアジア系も候補に入れてるの。でも、選択肢が少ないから……ずっと向こうで暮らすなら、アメリカ人の父親でもいいと思ってるわ」


何をどう言えばいいのかわからない。

悠は立っているだけの気力がなくなり、イスを起こすとそこに座り込んだ。


「ユウさん、どうしたの? 大丈夫?」


まるで新しい車でも選ぶかのような口ぶりに、何も答えられなかった。

美月は男というものを嫌っていたはずだ。日本でも酷い目に遭い、向こうに渡ってからも散々な思いをしてきた。


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