愛は満ちる月のように

(3)魔女の微笑

(あのまま……抱いてくれてもよかったのに。本気だと言った言葉の意味を、ちゃんと教えて欲しかった……)


美月は寝不足気味のぼんやりとした頭で考えていた。

昨夜、ソファで美月に口づけながら、悠はその先に進もうとはしなかった。ふたりの弟がすぐ近くに寝ているのだから、当然といえば当然なのだが。

抱き合うことが新鮮で楽しく、ついついのめり込んでしまいそうだ。

美月は慎みを欠いてしまった気がして、少し後ろめたい。形だけとはいえ夫婦なのだ。成人した大人の男女が自分の責任で抱き合うことに、誰も文句は言わない。などと、自らに言い訳をしてしまうくらいに。


悠は続けて休暇を取るために出勤した。


(今朝の様子もおかしかったし……。ユウさんは早めに、私たちの関係を切り上げるつもりなのかもしれない)


真の顔を見て、悠は我に返ったのかもしれない。身体を求め合う自分たちの行為が、愛情とは呼び難い浅ましい姿である、と。


悠と真の間にどんな会話があったか知らない美月にとって、それは切ない現実だった。



「美月ちゃん……小太郎が心配してんだけど」
 

ふいに真の声が聞こえ、美月はハッとして顔を上げた。

真の横にはウサギを抱いた小太郎が、途方に暮れた瞳で姉を見つめていたのである。


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