愛は満ちる月のように
「ごめんなさい。遠藤さんというお名前に心当たりがないのだけれど……。どちらの遠藤さんかお聞かせくださる?」
ニコリともしない美月に相手も警戒したのだろう。
わざとらしく口角を吊り上げ、先ほどとは違うアルカイックスマイルを見せた。
「あら……そうだったの? 悠(ユウ)も困った子ね」
その呼び方に美月はドキリとした。
悠にとって美月は特別だと那智が教えてくれたことがある。それは、悠を『ユウさん』と呼ぶことだ。那智の知る限り、親しげにそう呼んだ女性とは翌日には別れていた、と。
美月がそう呼ぶのは悠の母親の影響だった。
一条家に遊びに行くと、悠や真の母親は息子たちを『ユウ』『シン』と呼んでいた。
『本当は子供たちが混乱するからよくないんだけど……』
そんなふうに笑っていたが、母親と息子の特別な繋がりを見た気がして……。ボストンで再会したとき、『お兄さん』と呼ぶ美月に悠は名前で呼んで欲しいと言い……『ユウさん』になった。
悠はそのことで美月に訂正を求めたことは一度もない。
この沙紀という女性は悠の恋人だろうか?
それも、『ユウ』と呼ぶことを許した特別な女性。悠より十歳近く年上に見えるが、年の差は恋愛を否定する理由にはならない。
ニコリともしない美月に相手も警戒したのだろう。
わざとらしく口角を吊り上げ、先ほどとは違うアルカイックスマイルを見せた。
「あら……そうだったの? 悠(ユウ)も困った子ね」
その呼び方に美月はドキリとした。
悠にとって美月は特別だと那智が教えてくれたことがある。それは、悠を『ユウさん』と呼ぶことだ。那智の知る限り、親しげにそう呼んだ女性とは翌日には別れていた、と。
美月がそう呼ぶのは悠の母親の影響だった。
一条家に遊びに行くと、悠や真の母親は息子たちを『ユウ』『シン』と呼んでいた。
『本当は子供たちが混乱するからよくないんだけど……』
そんなふうに笑っていたが、母親と息子の特別な繋がりを見た気がして……。ボストンで再会したとき、『お兄さん』と呼ぶ美月に悠は名前で呼んで欲しいと言い……『ユウさん』になった。
悠はそのことで美月に訂正を求めたことは一度もない。
この沙紀という女性は悠の恋人だろうか?
それも、『ユウ』と呼ぶことを許した特別な女性。悠より十歳近く年上に見えるが、年の差は恋愛を否定する理由にはならない。