愛は満ちる月のように
『私は一生結婚なんてしない』


たった十六歳の少女が何度も言っていた言葉だ。悠の耳に今でも残っている。


「いや……驚き過ぎて言葉もない。随分な心境の変化だと思ってね」


美月は一旦口を閉じると、目を伏せて話し始めた。


「私、今年二十四歳になるの。母が私を産んだのが二十二歳のとき、そして二十五歳で亡くなったわ。母が命を懸けて子供を産んだ意味を……私も知りたいと思ったの」

「それで……父親候補を探した訳か。使ったのは結婚相談所か何かかい?」


悠の問いに美月は吹き出した。


「いやだ。言ったでしょう? 私は一生結婚なんてしない。もちろん、本当の結婚は、って意味だけど。――精子バンクを利用するの」


先ほどとは別の衝撃が悠を襲った。


だがすでに、美月は何度か訪れて相談したという。相手の身元は一切わからないが、人種や髪、瞳、肌の色などはチョイスできる。あとは身体能力であったり、学歴、既往症など……。様々な条件でふるいにかけて候補者を選ぶ。

だが、彼女の場合大きな問題があった。


< 20 / 356 >

この作品をシェア

pagetop