愛は満ちる月のように
ここは華道展の行われた大阪市内のホテルだった。

レストランの個室を取り、まるで見合いのようにふたりきりで顔を合わせている。


さすがの悠も少し緊張していたが、叔父たちの思惑がわかり、ネクタイを緩めた。


「悪かったね。せっかくの華道展なのに、こんな厄介な話をすることになって。君に迷惑をかけるつもりはないから。僕からちゃんと叔父さんに話を通すから安心して欲しい。久しぶりに会えて嬉しかったよ。今度は叔父さんも一緒に、ゆっくりと会おう」


食事は注文しているはずだった。だが、気持ちが急いてしまって、どうにも腰を落ちつけていられない。

早口で遥に声をかけると、悠は部屋から出て行こうとした。


「あ、待って、悠さん」


そんな悠を焦った様子で遥は引き止める。


「何?」

「厄介なんて思ってないわ。私……悠さんの薬指にはまった指輪の理由はよく知りません。でも、何か事情があると聞いてます。悠さんがそれを外して、違う指輪をはめるつもりがあるなら……私じゃダメかしら?」

「……遥……」


決して押し付けるふうでもなく。控えめに微笑む遥だった。


< 206 / 356 >

この作品をシェア

pagetop