愛は満ちる月のように
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悠は新大阪駅の新幹線ホームに立ち尽くしていた。

放送は耳に聞こえているのだが、内容が一向に入ってこない。頭の中が混乱して上手く考えがまとまらない。



『政略結婚とか会社の犠牲とか、そんな悲壮感漂うものじゃないの。ただ、父は以前から……自分は社長の器じゃなかった。みたいに言うことがあったから……』


そう遥は言った。

彼女は母親から縁談を押し付けられ、父親に相談したという。匡は自分が不甲斐ないばかりに、と落ち込んでいた。

そのときに遥が悠と結婚してくれたら、すぐに社長の椅子を譲れるのに、と話したらしい。

だが、遥にすれば訳がわからない。

悠には妻がいると聞く。名前も知らず、親戚の誰も会ったことがないというのは不思議でならないが……。それでも本人たちが納得しているなら、他人が口を挟むことではないだろう。

そう答えた遥に、匡はおおよその真実を教えたのだった。


『父は社長を降りたら母とよりを戻して、静かに暮らしたいというの。母もまんざらじゃなさそうだし……。私も両親が仲よくしてくれるのなら、それに越したことはないわ。それに……従兄妹同士の気安さもあるし、家族としての愛情なら育めると思うんだけど』


悠の過去も噂もとくに聞くつもりはない。未来さえ誠実だと約束してくれるなら。遥は悠と結婚して一条を盛り立てたい、そう言ったのだった。


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