愛は満ちる月のように
バルコニーの手すりにもたれ、美月が恋い焦がれるような表情で月を見上げている。


(このまま……月に帰ってしまいそうだ)


そんな愚かな想像に、胸が錐で突かれたように痛む。


「ユウ……さん?」


彼女はハッと驚いた顔をするが、たちまち眉間にシワを寄せた。


「帰ってこられるなら電話ぐらいしてくれてもいいんじゃない? 社長の呼び出しで大阪まで行くと聞いて、とんでもないことがあったんじゃないかと心配していたのに」

「ごめん。仕事で……色々と面倒なことが続いて。すぐに帰れると思ったのに、アテが外れて散々だったんだ」


悠はスーツのネクタイを緩めながら美月の横に立った。


「夕食ぐらいみんなで取りたかったんだけど、それもできなかった。本当にすまない」

「別に怒ってる訳じゃないわ。心配したのよ、って伝えたかっただけ……」


美月は手を伸ばし、悠に代わってネクタイを解く。

そして、途中で手を止め、彼女はじっと見上げていた。


「ねえ……キスも、してくれないの?」

「……ふたりがいるのに?」


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