愛は満ちる月のように
胸元で聞こえる声は悠の心臓を揺さぶった。
恐る恐る美月から離れようとする。だが、美月のほうが悠を放さなかった。
「遠藤沙紀さんて方。前、姉がいるっておっしゃってたわよね? 三人で行った動物園で会ったの。知り合いの子供さんの付き添いって言われたんだけど……私には偶然だとは思えないわ」
美月の声は緊張を孕んでいた。
彼女の言うとおり、偶然ではないだろう。おそらく、悠の周囲を気づかれぬように徘徊し、タイミングを見て接触してきたに違いない。
この分なら、あの無言電話の犯人も……。
「彼女は……君に何を言った?」
「正直に答えたほうがいいのかしら?」
言いよどむ美月の口調に、悠はほとんどの内容を察する。
「いや……わかった。もういいよ」
「それだけ? ちゃんと聞いて、否定はしないの?」
「君が信じたいものを信じればいい。どうせなんの証拠もない。今となっては水掛け論だ。ああ……ひとつだけ確かな事実がある。――僕があの女を抱いたのは本当だ」
早口で吐き捨てるように言い、悠は美月から離れた。
恐る恐る美月から離れようとする。だが、美月のほうが悠を放さなかった。
「遠藤沙紀さんて方。前、姉がいるっておっしゃってたわよね? 三人で行った動物園で会ったの。知り合いの子供さんの付き添いって言われたんだけど……私には偶然だとは思えないわ」
美月の声は緊張を孕んでいた。
彼女の言うとおり、偶然ではないだろう。おそらく、悠の周囲を気づかれぬように徘徊し、タイミングを見て接触してきたに違いない。
この分なら、あの無言電話の犯人も……。
「彼女は……君に何を言った?」
「正直に答えたほうがいいのかしら?」
言いよどむ美月の口調に、悠はほとんどの内容を察する。
「いや……わかった。もういいよ」
「それだけ? ちゃんと聞いて、否定はしないの?」
「君が信じたいものを信じればいい。どうせなんの証拠もない。今となっては水掛け論だ。ああ……ひとつだけ確かな事実がある。――僕があの女を抱いたのは本当だ」
早口で吐き捨てるように言い、悠は美月から離れた。