愛は満ちる月のように
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――大学二年の夏。

それまで一度も女性と付き合ったことのない悠に彼女ができた。友人の彼女の友だち、というごく自然な流れだった。紹介されて何度かダブルデートをして、初めてふたりきりでデートしたとき、別れ際にキスをした。

身体にも触れず、ただ、唇が数秒触れ合うようなキス。あとから思えば十代の性衝動かもしれない。でも、あのとき初めて、悠は彼女とそれ以上の関係に進みたいと思った。


『でもさ……マホさん、年上だし。去年まで彼氏がいたから、バージンじゃないと思うぜ』


悠の友人、小岩豊の言葉だ。

小岩とは大学で出会い、父親が同じ弁護士と聞いて意気投合した。小岩の彼女が“マホ”の親友という関係もあり、女性関係に不案内な悠は彼になんでも相談していたのだった。


『というか……お前、童貞ってバレたら絶対笑われるって。そんだけのルックスで、なんで経験してないんだよ』 


そんなことを言われても、だ。

悠の場合、別に親が厳しかったというようなことはない。門限もとくになく、小遣いにも不自由することはなかった。何がなんでも経験したければ、風俗を選ぶこともできたのだ。

だが、そのころまでの彼にとって女の子もセックスも興味の対象外だった。


『お前……それって異常じゃね?』


大きなお世話だ、と思ったが……。

実際に女性を前にすれば、どうしたらいいのか見当もつかない。両親の行為を耳にしたことくらいはある。それなりのAVを付き合いで見たことも。

にわかに目覚めた興味は、彼の好奇心を若者特有の過ちへと導いた。


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