愛は満ちる月のように
「事情が許すようになれば、姉さんから会いに行くから。もう、無茶はしないで。お父さんやお母さんにもそう伝えて」

「うん。大丈夫だよ。お父さんが退職したら、みんなでお姉さんの住むボストンに行くからね。そうしたら、また一緒に暮らせるよ」

「……アメリカまでバイクでは来られないわ」


美月は優しく微笑んだ。


「船があるよ。ボストンも海の近くなんでしょう?」

「ええ……大西洋側だけど。それに、アメリカまで定期客船はないのよ。貨物客船で西海岸に着いても、バイクで大陸を横断することになるんだから……」

「だったら反対に回って行くよ。大丈夫、海は必ず繋がってるんだから……お姉さんのとこまで行けるよ」

「そうね。小太郎にかかったら、なんでも簡単なことね」


幸福に満ちた笑顔を浮かべ、美月は小太郎を抱き締めた。


(嘘をついてるんだ……桐生の問題はほとんどなくなった、しばらく様子をみたら、東京の実家に戻ることも可能だ、と……伝えなかった……自分の欲望のために)


後ろめたさが際限なく襲ってきて、悠は姉弟の姿から目を逸らす。


「兄貴――」


そんな悠の態度に何か感じたのか、真の声は珍しく低いトーンで声をかける。


「……なんだ」

「俺たちより、美月ちゃんが大事か?」

「俺たちって?」

「親とか、弟妹とか……」


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