愛は満ちる月のように
(責任転嫁もいいところだな……美月に言ったら、自分の馬鹿さ加減はどれほど高い棚に上げたの……とか返されそうだ)


山積みになった書類を決済するため、昼食も本部長室で済ませている。


「あら、奥様の手作り弁当なんて、お幸せですね」


そんなふうに茶化したのは秘書の川口だ。

真や小太郎と同じように、美月は悠のために弁当を用意してくれた。思えば、手作り弁当なんて高校時代以来か。

部屋で済ませた理由は仕事だけでなく、嬉しくもあり、少し気恥ずかしいという気持ちがあったからだ。


「ついでがあったので作ってもらったんだ。今日だけだよ」

「そんなことおっしゃらずに、毎日作ってもらえばいいじゃありませんか。ああ、そうだわ、本部長――間違っても、もう作らなくていい、なんて言ってはダメですよ。美味しかったよ、と言ってもらうだけで女は嬉しいものなんですから」


主婦歴数十年の川口はそう言って悠に説教を始める。


「わかったわかった。肝に銘じておこう」


苦笑して早々に降参する悠だった。


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