愛は満ちる月のように
忙しいが残業をするつもりはなく、十七時を過ぎたころには美月のことばかり気になり始める。

定時には社を出よう。今夜こそは美月に桐生の件を話さなくては。悠がそう心に決め、ファイルした書類を自分で棚に戻していたとき、短いノックと同時に扉が開いた。


「申し訳ありません、本部長。お客様が……ちょっと、あなた!」

「ユウくん、久しぶり! 元気してた?」


川口の横をすり抜け、小走りに部屋を横切り悠に抱きつく――遠藤沙紀だった。


「この方が本部長のお姉様だとおっしゃって……」


困った表情で川口は悠と沙紀を見比べている。


「いや……この女は姉じゃない」

「では、警備室の者を」

「呼ばなくていい。私がすぐに追い返す。君は仕事に戻ってくれ」


悠の言葉に川口は訝しそうにこちらを見ながら扉を閉めた。


「いやだ、酷い子ね。すぐにそうやって私を邪険にするんだから」


秘書の川口と沙紀はそう歳も変わらないはずだ。だが、沙紀のほうが四、五歳、あるいはそれ以上若く見える。濃い化粧と派手な洋服、水商売を思わせるその姿は十年前に比べるとだいぶ変わった。

あの当時は、派遣のOLにしか見えなかったが……。


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