愛は満ちる月のように
法的手段が一切の効力を発揮しない。

沙紀は新手の耐性菌さながら、悠の人生に居座り続けている。対症療法として法律を駆使しても、抜本的な解決には至らないまま……十年の月日が流れていた。



「用件は?」

「冷たいことを言わないで。二年ぶりに、愛する弟に会いにきたんじゃない」

「私は弟じゃない。……用件は終わったな。なら、帰ってくれ」


悠は沙紀の挑発に淡々と応じた。

さすがにまともには取り合ってもらえないとわかったのだろう、沙紀は悠に背中を向け、部屋から出て行きかけた。


「ああ、そうだわ……奥様のナイトみたいに真くんが寄り添っていたけど……。あの子もいい男になったわねぇ。昔のあなたみたいに、素直そうだし」

「……言いたいことはそれだけか」


悠は受話器を持ち上げ、


「警備の人間に社外まで案内させよう」


沙紀から目を逸らした。


「紫ちゃんもすっかり大人になって。高二ともなれば、女は一人前ですものねぇ。十年前にお兄さんが家を出た理由、とっても聞きたがってたわ」


< 245 / 356 >

この作品をシェア

pagetop