愛は満ちる月のように
下の妹の名前が出たことに、悠の理性は吹き飛んだ。


「紫に会うな! 貴様が言ったんだぞ。結婚して海外に逃げるなら、真や妹たちも巻き込む、と。私はどこにも行かない。逃げるつもりはない。正当な話し合いならいつでも応じる」

「そう言って東京からこんなとこまで逃げてきたくせに」

「誰のせいだと思ってる? 腹違いの姉をレイプ同然に犯して妊娠させた鬼畜だと、噂を流したのは貴様だろう……」


悠は拳を握り締めたまま呻くように言った。



たびたび訪れる不審な女。ときには警察沙汰にまでなっているのは事実だ。

噂が噂を呼び、奇妙な尾ひれまでついて広まっていく。それを止める手立てなど、あるはずもない。


――金と名前で罪を揉み消した。そのせいで弁護士になれなくなった。父親にも家を追い出された。 


悠の不名誉な噂は増殖する一方だった。

それでも逃げることはできない。


『いいわよ、別にあなたじゃなくても。他にも弟たちがいるんだから。噂じゃない真実を話して、色々相談するわ。それとも、お母様とじっくり話し合ったほうがいいのかしら?』


< 246 / 356 >

この作品をシェア

pagetop