愛は満ちる月のように
ひとりの女性を真剣に愛せないという悠。

彼は沙紀との経験もあって、子供を持つことを恐れ、自分と同じ思いをさせるだけだ、と諦めている。

その気持ちは美月には切ないほどよくわかる。

戸籍上の実父である太一郎も、継母の茜も、それはもう美月のことを本気で愛し、心配してくれた。いや……今もそうだろう。

写真の笑顔しか記憶にない母、奈那子も、命がけで美月を産んだのだ。その愛情は疑うべくもなかった。

愛されている。

それは確実であるはずなのに、心の奥底に不安が大きな顔をして居座り続けている。


愛し合う両親から望まれて誕生した命――子供のころ美月の近くにいた、またいとこの家族はまさにそんな感じだった。

何かが自分と違うと思い続けた。その正体は、あのころはわからなかったけど、今ならわかる。


ごく普通に愛し合って結婚をして、愛する男性の子供を産む。

世間一般の多くの女性が叶えているはずの夢なのに、美月には果てしない夢に思える。


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