愛は満ちる月のように
「じゃあ、離婚届をもらってきたんだ」


最初にこの店を訪れたとき、通してもらった二階席に美月は座っていた。

正面には那智が私服に着替えて着席している。ふたりの前には淹れたてのコーヒーが置かれ、美月はカップから立ち昇る白い湯気をみつめながら答えた。


「はい。悠さんは何もおっしゃらないけど、私は中途半端に関係を続けるのはイヤなので」

「でも夫婦だろう? お試しに、しばらく一緒に暮らし続けてみるって選択肢はないの?」


那智の言葉はわからないでもない。

だが、


「二週間一緒にいてわかったんです。最初の一週間はきっと新鮮で楽しんでくれたんだと思うけど、もう……夫婦ごっこに飽きたんだと思います」


悠は美月とのセックスに飽きたのだ。だから、どうやって別れを切り出すか悩んでいる。

美月はそんなふうに答えを出した。


「試してみてよくわかったから……やっぱり離婚して、私はボストンに戻ります」


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