愛は満ちる月のように
美月の決断を聞き、那智はしばらく黙っていたが、


「以前ね、奴がこんなことを言っていた。――自分が檻から出たら、それを嗅ぎつけて魔女が現れる――何か、心当たりはあるかな?」


彼女の脳裏に沙紀の姿が浮かんだ。

だが、イエスと答えていいのかどうか迷う。


「そしてこうも言っていたよ――美月さんは違う、君だけは巻き込みたくない――ってね」


トクン、と鼓動が跳ね上がる。

ひと言も口にできず、美月は再びコーヒーカップに視線を落とした。 


「詳しいことは聞いてない。でもね、一条にとって君は“特別”だ。前も言ったとおり、君に“ユウ”と呼ばせているのには、何か意味があるはずなんだ。そのことに、奴自身は気づいていないのかもしれないけど……」


悠は沙紀という魔女に囚われている。そんな悠を、美月に救い出すことができるのだろうか?

那智の言うとおり、悠にとって自分は特別で、手を伸ばせば彼の愛を得られるのか?


(バカね……これじゃ愛してくれないなら愛さない、と言ってるようなものじゃない)


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