愛は満ちる月のように

(4)憎しみの種

『……ということで、美月さんがそっちに向かったから、念のため』


那智からそんな電話が携帯にかかったのは、午後三時を回ったころだった。

外出するとは言っていたが那智のところに行っていたとは。最後の挨拶かもしれない。そう思うと、いよいよ別れが近づいていることを認めざるを得ない。


「そうですか……。美月は何か言ってましたか?」 

『一条、過去に何があったかは知らないが、本気で孤独のまま生きていくつもりじゃないんだろう? 気休めに女を抱いてもなんの解決にもならない。どれだけ慎重に生きても、人生のリスクはゼロじゃないんだ』


那智の言葉に悠は苦笑いを浮かべ、


「それは美月が、僕とは離婚してボストンに帰りたい、そう言っていたってことですね」
 絶望や悲しみより、当然だといった感情が頭をよぎる。

『それは……』 

「わかりました。大丈夫だとは思いますが、美月のことは迎えに出てみます……わざわざどうも」


それ以上、那智の説教を聞く気にもなれず、悠は携帯電話を切ったのだった。


那智の店から一条物産の支社ビルまで歩いて五分程度。仮に、夕日川の土手に作られた遊歩道を歩いてきても十分もかからないだろう。

悠は窓を開け、身を乗り出すように美月が歩いてくるはずの方向に目をやる。

しばらくすると、白いワンピース姿の美月が姿を現した。


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