愛は満ちる月のように
狭い歩道を塞いで立ち話は邪魔になる。美月は誘われるまま、夕日川沿いの遊歩道に向かう。夕日川を眺める展望スペースがあり、そこで立ち止まった千絵は血相を変えて訴え始めた。


「ねえ、入籍していても正式な夫婦ではないのでしょう? お願いだから、本当のことを言ってちょうだい!」

「何を持って正式とおっしゃるのかわかりませんけど。入籍の事実だけで充分“正式”ではないかしら?」


あくまで冷静な美月とは違い、千絵の目は血走っている。そして泣くように叫んだ。


「違うわっ! あの前日まで私をパートナーとしてパーティに出席していたのよ。それをたったひと言……“ユウ”さんと呼んだだけで……もう、付き合いはやめるなんて言い始めて……」


それは那智から聞いたとおりだった。

美月と母親以外の女性からは、本当に『ユウさん』と呼ばれることを避けているらしい。

そのことを確信した途端、美月は千絵に申し訳ないと思いつつも、心が軽くなった。悠にとって自分は特別なのだ。それも母親と同じくらい……。


「なんなのその顔!? 優越感に浸った顔をして……そんなに、私のことを馬鹿にしてるのっ!?」

「あ、いえ……別にそういうわけでは」


慌てて言い訳をするが、おそらく彼女の言うとおりだろう。

悠にとって千絵と自分は違う。その優越感が美月の顔に出たに違いない。


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