愛は満ちる月のように
そんな美月の腕に千絵は取り縋った。


「ねえ、何か事情があるのよね? 私には彼が必要なのよ。他の女性と付き合いながら、それでも私との関係を続けてくれたわ。あなたのことなんて、誰も名前も知らなかったじゃない。形だけの結婚なのよね? すぐに別れてくれるわよね?」


一瞬、殴られるのかとびっくりしたが……。

千絵は恥も外聞も捨てたようにしがみ付いてくる。その必死さに美月はどう答えたらいいのかわからない。


「結婚はダミーに違いないと聞いて……父に話したのよ。父は私たちが結婚前提で付き合っていると思ってるわ。そのことを一条さんに話したいのに……休暇を取っていると言われて繋いでももらえない……」


その鬼気迫る様子に美月は尋常ならざるものを感じ始めた。


「待ってください。落ちついて……。わかったわ、私と一緒に悠さんのところに行きましょう。あなたがおっしゃる問題は、私たちが離婚しても片づかないと思うわ」


美月と離婚したら、悠は嬉々として以前の生活に戻るのだろう。声をかけられたら、喜んで彼のベッドに身を投げ出す女性はこの千絵だけじゃない。候補者は何人もいるのだ。暁月城のお花見のときを思い出し、美月の表情は曇った。


「ただ、妻帯者とわかって悠さんと関係したことは、あなたにも責任があるわ。結婚はダミーだという噂のほうを信じたからなんて、そんな都合のいい言い訳は日本の法廷でも通用しないはずよ。それは覚えて……きゃ!」


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