愛は満ちる月のように
考えたことはある。

だが、親元を離れて独立したくなったとき、手を差し伸べてくれたのは叔母の静だった。


亡くなった祖母は悠を可愛がりたい反面、幼いころに寂しい思いをさせたという負い目があった。そのため積極的に関わることができなかったという。

叔母はそんな亡き祖母の思いを汲んで、子供のいない我が家に来ないかと言ってくれた。


叔父の匡もそうだ。

匡はたびたび悠の父である聡に借りがある、と口にした。

詳細を尋ねたことはないが、会社関係の株式をはじめ祖父の財産をほとんど相続したことだろう。

父たちが納得の上なのだから、気にすることはないと思うのだが、どこか匡は悠に社長の椅子を譲りたがっている様子があった。

それは、弁護士になるという目標を捨て、新たな道を模索していた悠に示された未来。


沙紀の一件が父のせいだと言ってみても、喜び勇んで罠に飛び込み、付け入られる隙を作ったのは自分自身だ。

見た目は似ていても、心根の全く違う真なら……おそらく沙紀の罠には落ちなかっただろう。

自分の愚かさを反省すればするほど身動きが取れず、逃げ道を探して愚かさを積み上げるだけになる。


悠は可笑しくなって吹き出した。


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