愛は満ちる月のように
エレベーターの狭い空間に熱気が籠もり、妙に暑く感じる。


「私も植田さんと変わらないわね……いいえ、それ以上にあなたを罠に嵌めようとしている魔女なのかもしれない」

「そうじゃない。そんなことじゃないんだ……ただ……」

「はっきり言ってくれていいのよ。むしろ言ってくれなきゃ、いつまでも付き纏うかもしれないわ」


エレベーターの階数表示を涙目で睨みながら言う。そんな横顔を見ていると無条件で抱き寄せ、彼女の望むままにしてやりたいと思ってしまう。


(それで……どうなる? 愛してると言い切る自信はあるのか? 幸せにすると、言えるのか?)


美月には幸せになって欲しい。彼女にたしかな愛と子供を与えられる男、自信を持って自分の苗字を名乗らせることのできる男――。

悠自身が一条の姓を名乗ることに躊躇いを覚え、自らの存在価値を見つけられずにいる。そんな男が美月に相応しいとは思えない。

エレベーターが八階に停まり、扉が開く。

美月のほうが先を歩き、玄関扉に鍵を差し込み――手が止まった。


「……開いてるわ」

「まさか!?」


そんな訳はない。美月が鍵をかけ忘れたのかもといった気持ち……いや、期待がよぎる。


「わかった。君はここに……美月!?」


気を取り直して言葉をかける悠を尻目に、彼女は一気に扉を開けた。


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