愛は満ちる月のように
(ああ……そうか、僕は父さんを超えたかったんだ……父さんとは違うやり方で、自分は違う、と証明したかった……でも……)


「……そろそろ、降参したほうがいいんだろうな」


うつむき、ポツリと呟いた。

そのとき、ドン、と胸に一枚の紙が押し当てられる。


「離婚届よ。私の名前は書いてあるわ。私から自由になりたいなら、自分の名前を書いて提出してちょうだい」


彼女の目に強い光があった。

それが煮え切らない悠に対する憤りか、無様な男に向けた同情か……区別がつかない。


「あ、ああ……いや、でも……」

「愛してるって言ったこと、撤回する気はないわよ。誰がなんと言っても、あなた自身が自分を信じていなくても、私はあなたを信じてる。ボストンで私を助けてくれた、あなたは私にとってたったひとりのヒーローだわ」


美月が眩しかった。目が眩んで、それ以上直視できない。そのとき、ふいに彼女が片手で悠のネクタイを掴み引っ張った。

前屈みになる悠の唇にサッと口づけ、一瞬で手を離す。

黒曜石を思わせる凛とした美月の瞳が、ほんのわずか揺らめき……その光が涙だと知る。


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