愛は満ちる月のように

(8)涙のプロポーズ―2

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「美月……どうしてもボストンに帰るのか?」


成田空港の出発ロビーで美月に声をかけるのは父、太一郎だ。

せっかく家に戻れたのにたった三日しかいないなんて、と母の茜とともに不満を口にする。


「もう随分仕事を休んじゃったから。自分から志願してシェルターの弁護士になったんだもの、これ以上勝手はできないわ」


日本に滞在したのは約三週間。

それは美月にとって、短くて長い三週間だった。


「いっそ、仕事を辞めて戻ってくるっていうのはどうだ?」

「それはダメよ。本家の卓巳おじさまもおっしゃってたじゃない。今は桐生の動きはないけど、完全に途絶えた訳ではないって。私が帰国することで、よからぬことを考える人間が現れないとも限らない。……大丈夫よ。今度は年に数回、帰って来れるんだから」


父は言い難そうに口を開き……。


「それで……悠くんとは」

「ええ、離婚するわ」


美月の左手の薬指から、マリッジリングは消えていた。


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