愛は満ちる月のように

(9)欠ける月―2

「そう言って、今までもユウさんの周囲の人間からお金をもらったきたんじゃないの?」

「バ、バカなこと、言わないでよ! なんの証拠があって……」


今の時点で証拠はないが、本気で調査すれば手にすることは容易に思えた。

決まった仕事はないはずだが、充分に高価といえる洋服や装身具を身に着けている。騒動を起こしたあと、しばらくは悠の周囲からいなくなるというのも不思議だ。

悠自身はともかく、彼の父親や後見する人間なら沙紀の動向は探らせているだろう。

その中に、金で片がつくなら、と思う人間がいたとしてもおかしくない。


「ユウさんは……自分が愚かで何もできない男だから、あなたが付き纏っている、と言っていたけど……それは違うでしょう? あなたはユウさんが好きで、その反面、羨ましいのよ。純粋で誠実で……あなたのような厄介者にも真摯に向き合ってくれる。だから、離れられないのよね」


憐れみの視線を向けたつもりはなかった。

でも、沙紀にとっては違ったようだ。


「バカにするんじゃないわよ! 一条の父が悪いんじゃない。いつまでも昔の悪事を認めようとしないから……。だから……」

「だったら直接、一条のお義父様に交渉すれば済むことよ。そうしないのはなぜ?」

「……そんなこと……あんたになんの関係があるっていうのよ!」


自分が沙紀を追い払ってやろうと思っていた。どんな権力、お金を使っても、悠の傍からこの女を排除してやろう、と。

でも、それでは悠は救われない。


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