愛は満ちる月のように
悠は魔女と呼ぶこの女を、殺したいほど憎んでいる訳ではないのだから……。


「あるのよ、関係は。あなたは……きっと私だから。だから、教えてあげる。仮に“一条”の名前を手に入れても、あなたは満たされないわ。一条先生は厳しい方だから、あなたがユウさんに惹かれる気持ちはわかるけど……」


刹那――沙紀は狂ったように笑い始める。


「そうかもね。あの子は甘っちょろいから、私のいる地獄に引きずり下ろして、ボロボロにしてやりたいのよ。だって、あの子も私と同じで父から捨てられた子なんですもの。でなきゃ、不公平すぎると思わない?」


彼女の目は血走っていた。

自分が幸せになりたいのではなく、人を不幸にしたいという思いが伝わってくる。美月自身は人を不幸にしたいとは思わなかったが、幸せを望むことに臆病になっていた。

それはある意味、美月の近くにいようとする人を不幸に導くものだったかもしれない。


美月はフッと微笑み、腕時計に目をやった。

そろそろ搭乗時間だ。


「ホント……この世の中って不公平なことばかりね。あなたもいい加減諦めたら?」

「ようするに、あの男のために払う金はないってことじゃない。綺麗事ばかり言ってないで、正直に言ったらどう?」

「そうよ。ユウさんのためって言いながら、自分のために払うお金はないわ! だって……ユウさんは私に、助けてくれなんて言ってないもの」


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