愛は満ちる月のように
直後、胸に手を当てられ押し返される。


「ま、待ってください……私です、遥です! 一条遥です――ちゃんと目を覚まして!」


常夜灯の灯りに映し出されたのは、従妹の姿だった。


悠はハッとして手を放す。

すると遥は慌てた様子で悠と距離を取った。


「何度もお電話を差し上げたのに、折り返しかけるとおっしゃるばかりで……」


責めるような遥の言葉に悠は前髪を掻き上げた。

たしかに、何度か電話を受けたような気がする。この一ヶ月は美月のことしか頭になかった。それを消すために、目先に仕事に集中するだけだった。

とても遥の話を聞く気分になれず、悠は悪いとは思いつつ無視していたのだ。


「ああ……悪い。結婚のことは……すぐには考えられそうにないんだ。だから、もし他の候補者がいるなら……僕のことは気にせずに進めてくれていいから」

「そうじゃありません!」


遥はピシャリと遮った。


「お話があったのですが……。今の悠さんのご様子では、とても聞いていただくどころじゃありませんね」

「……」


ため息とともに言われ、悠は返す言葉もない。


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