愛は満ちる月のように
「それに……たぶん、あなたとは結婚できないと思うし……」


遥が悪い訳ではない。

酒に酔ってスーツ姿のままソファで眠り込んでいた。そんな姿を見れば、夫に相応しくないと判断されても仕方がない。


だが、このときの悠は理性の箍が外れていた。


「結婚できないのは……僕が次期社長に相応しくないからか? それとも、妻に捨てられた男に期待はできない、とでも?」

「……おっしゃる意味がわからないわ」

「いい歳してわからないはずがないだろう? なんだったら……試してみてもいいよ。今、ここで」


唖然とする遥の手をふたたび掴み、引き寄せようとした。


「やめてください! 酔ってらっしゃるのね。こんな悠さんは嫌いです!」

「じゃあ、どんな僕が好きなんだ? いや、どうせこの程度の男だ。誰の伴侶にも相応しくないし、愛される資格もない。どうせ……どうせ……」


“男の子なんだから”たいていの男の子はそう言って育てられる。悠も例外ではなく、コレに加えて“お兄ちゃんなんだから”がセットになっていた。

ただ……“男の子”でも、虚勢を張れないときはある。

嫌がる女性に手を出すほど落ちぶれるつもりはない――そう言って遥を追い出すことができないほど、悠の心はどん底まで落ちていた。


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