愛は満ちる月のように

(2)後悔

『兄さんは冷たすぎる。自分の息子が苦しんでいるんだぞ。金で解決できるものなら、財産を投げ打ってでも助けてやろうとするのが親だろう? 悠に厳しいのは、ひょっとしたら心の奥でいまだに僕と夏海さんのことを疑ってるせいなのか?』

『そうじゃない。おまえが悠を大事に思ってくれるのはありがたいさ。だが……騒ぎを起こせば金になる――それがなくならない限り、遠藤の娘はいつまでも悠から離れないだろう』

『それが冷たいって言うんだ。向こうが諦めて離れるのを待っていたら、悠の名誉も精神状態もボロボロになる』

『悠はそんなに弱い男じゃない。――私の息子だ』

『……』


遥は父と伯父の会話を、息を殺して聞く羽目になってしまった。


夏海とは悠の母の名前だ。父が義姉を名前で呼んだことに違和感を覚える。

聞いてはいけないことを聞いてしまったような、不安と罪悪感が遥の胸に広がった。




< 303 / 356 >

この作品をシェア

pagetop