愛は満ちる月のように
「お兄ちゃんは頭がいいけど、全部わかったつもりで自己完結するのはただのバカよ! お母さんだって何も食べられなくなって入院してたんだから……」

「いいのよ、桜。母さんが悪いの。桜や紫に会うなって言ったのは私だから……ユウさんはそのとおりにしてくれただけなのよ」


ふたりの会話に悠の呼吸は速まる。

だが、一番驚いたのはその次の桜の言葉だった。


「わかってるわ。あの、遠藤沙紀が原因なんでしょう? まったく、ダニみたいな女ね。あちこちに湧いて出てくるんだから。でも、私はあんな女には負けないわ」

「待て、桜。どうしておまえが沙紀のことを知ってるんだ!?」

「そんなの……どうでもいいじゃない」

「いいや、よくない!」


いいはずがない。沙紀だけは桜や紫から引き離しておきたかった。父も同じ思いのはずだ。

会社を中心に流れた噂は、社外に出ないよう注意を払った。弟妹の耳に届くのを恐れて、地方に行ったのも同然なのに……。


悠がさらに問い詰めようとしたとき、


「一条さんの意識が戻りましたよ」


病室の扉がふたたび開き、中から看護師の声が聞こえた。


母は「本当ですか!?」と答え、急いで中に入っていく。

それに桜も続いた。


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