愛は満ちる月のように
「悠――おまえは入らないのか?」


家族の会話に加わらず、隅で控えていた勇気が声をかけてくる。


「どんな顔をすればいいのかわからない……」


正直な気持ちだった。

そんな悠の言葉に勇気は困ったように笑う。


「気取ってどうする? 相手は親だぞ。おっぱい飲ませてもらって、オムツを変えてもらったんだ。かっこつけるだけ無駄ってヤツだ」

「たしかに。だから、母さんに突き放されたのがショックで……。逆に、父さんには気取ってしまうのかもな」


知ってか知らずか、勇気の言葉は的を射ており――悠も苦笑するほかない。

すると、勇気は頭をガシガシ掻きながら口を開いた。


「なぁ……桜ちゃんが去年の春に婚約解消した件、聞いたか?」


いつだったか美月にも同じ質問をされたように思う。


「それは聞いたけど……?」


自分とどう関係があるのか知りたかった。

すると、勇気はひと呼吸入れて、


「相手の男は桜ちゃんが勤める自動車メーカーの社長の息子で、彼女と同じ営業所の所長だったかな? 向こうが惚れ込んできて……まあ、彼女も結婚する気になった訳だが……そこに、さっき話に上がった“遠藤沙紀”って女が割り込んできた――」


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