愛は満ちる月のように
沙紀は桜の婚約者に、悠との関係をいろいろ吹き込んだ。
それは真相から限りなく遠い、沙紀の主観で塗り固められた事実。だが、あからさまなねつ造ではない。
「桜ちゃんも嫌なことを言われて、結局、向こうから婚約を破棄されたんだ」
自分のせいで、桜にまで……。
その思いに悠が病院から逃げ出したい気分になったとき、ふいに、怒ったような桜の声が聞こえた。
「ちょっと勇気くん、それって大きなお世話!」
病室から飛び出してきた桜は腰に手を当て、男ふたりを怒鳴りつける。
「もともと、結婚してくれってしつこいから、妥協しようと思っただけ。仕事を続けてもいいって言ったくせに、今の仕事はダメって言い出すから……私から断ったのよ。それを体裁がどうとかって……」
桜は悠の鼻先に指を突きつけると、
「いーい? お兄ちゃんのことも、沙紀って女も、一切関係ないの! 謝ったりしたら、また叩くからねっ!」
桜の勢いに勇気は小さく口笛を吹き、ジロッと睨まれて口を閉じる。
ここまできっぱり言い切られては、悠も『ごめん』とは言えない。
「私のことはいいから……。お父さんがお兄ちゃんに会いたいって」
その言葉に悠は深く息を吐いて――。
それは真相から限りなく遠い、沙紀の主観で塗り固められた事実。だが、あからさまなねつ造ではない。
「桜ちゃんも嫌なことを言われて、結局、向こうから婚約を破棄されたんだ」
自分のせいで、桜にまで……。
その思いに悠が病院から逃げ出したい気分になったとき、ふいに、怒ったような桜の声が聞こえた。
「ちょっと勇気くん、それって大きなお世話!」
病室から飛び出してきた桜は腰に手を当て、男ふたりを怒鳴りつける。
「もともと、結婚してくれってしつこいから、妥協しようと思っただけ。仕事を続けてもいいって言ったくせに、今の仕事はダメって言い出すから……私から断ったのよ。それを体裁がどうとかって……」
桜は悠の鼻先に指を突きつけると、
「いーい? お兄ちゃんのことも、沙紀って女も、一切関係ないの! 謝ったりしたら、また叩くからねっ!」
桜の勢いに勇気は小さく口笛を吹き、ジロッと睨まれて口を閉じる。
ここまできっぱり言い切られては、悠も『ごめん』とは言えない。
「私のことはいいから……。お父さんがお兄ちゃんに会いたいって」
その言葉に悠は深く息を吐いて――。