愛は満ちる月のように
そんな悠に母は十年前と同じように微笑んだ。


「それはできないわ。だって、聡さんのことを愛しているもの。過去も未来も、いいことも悪いことも、全部を受け入れてしまえるくらい。それに……聡さんはかっこつけようとして、失敗ばかりしてる人だから……見捨てられないわ」


母の言葉を聞いた瞬間、何かが胸の奥でざわめいた。

あのとき、母が息子を切り捨てたように聞こえた言葉。

だが今は……。


――誰がなんと言っても、あなた自身が自分を信じていなくても、私はあなたを信じてる。


美月の言葉が胸に甦る。


「父さんにとって……僕が生まれたことが人生最大の過ちだとしても? そんな父さんでも愛して、許せる訳?」

「悠さん……? それは違うわ……それは順番が」


何か言いかけた母を父が止めた。


「悠、おまえは四人の中で一番私に似ている。過ちを繰り返しては、自分で責任を取ったつもりで孤独に陥る。違うところは……私は自分だけでなく人にも厳しくしてしまうが、おまえは優しいな」

「……父さん?」


悠が尋ねようとしたとき、はじけたように声が上がった。




「なんなの? 何よ、コレ……。家族でなんの茶番をやってる訳?」


沙紀に答えたのは母だった。


< 325 / 356 >

この作品をシェア

pagetop