愛は満ちる月のように
沙紀に真意を問い質そうとしたとき、数人の看護師が駆け寄ってくる。


「大きな声が聞こえましたが、何かありましたか?」

「ああ、いえ、すみません。ちょっとした行き違いがありまして……」


病院内でそういった騒ぎは起こさないでください、と注意を受けている間、沙紀は悠たちに背を向けて姿を消した。




「何が、一生搾り取れる、よ。結局、最後まで謝らなかったわね。最低の女」

「いや……」


最後の言葉、あれはおそらく――。

そのまま空を睨んで黙り込んだ悠の顔を、桜は不思議そうに覗き込む。


「何?」

「人も人生も複雑過ぎる。もっとシンプルに生きられたら楽だろうな……おまえみたいに」

「私は真とは違うわよ! どっちにしても一番複雑なのはお父さんだわ。何考えてるのか全然わからない。あの女の化けの皮を剥がすために養女にするなんて言ったのよね? まさか、本気じゃないわよね?」


悠に聞かれても、だ。

父の考えが悠にわかるなら、情けないことに三十歳にもなって悩んでなどいないだろう。


「父さんの考えなんかわかるもんか。でも僕は……」


ふと思いつき、悠は病室に駆け戻った。


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