愛は満ちる月のように
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『沙紀の母親? もちろん、若さゆえに先走ったところは否定しないが、愛していたから結婚したんだ。二度目の結婚は……式まで挙げながら取りやめにしたのは、愛じゃないと気づいたからだ。夏海とおまえを捨てたのは……愛されてない、私の子どもじゃないと思い込んだからだよ。自信がないくせに、プライドだけは高かった。おまけに、過ちを訂正する勇気もなかったんだ』


“長男だから”と言われて育ち、細かく干渉されるのが嫌だったという。最初の結婚の失敗を指摘されるもの嫌だった。会社も継がず、家を出て、長男の権利とともに義務も放棄した親不孝者だった。


『おまえも親に干渉されたくないはずだ。手を貸さなくても、ひとりで立派に乗り越えて一人前の男になる――そう思っていたんだが……』


(そんなところで切るなよ。母さんまで同情のまなざしを向けるのはやめてくれ! 僕は……僕だって……)




――当機はただ今より五十分ほどでボストン、ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港に到着いたします。


機内アナウンスにハッと目を覚ます。

体内時計は深夜だが、現地時間は昼前だ。仮眠を取ろうとしたがろくに眠れず、今になってウトウトしてしまったらしい。 


機内の様子をぐるりと見まわし、比較的ラフな格好をした若者が多いことに気づく。

七月の最終週、夏休みの時期だけに学生が多いのかもしれない。


美月と別れてから三ヶ月が過ぎた。

言い訳ができるとすれば……迷っていた訳ではなく。物理的に二ヶ月の時間がかかってしまった。


(でも冷静に考えたら……「なんの用?」とか聞かれそうだな)


悪い方にばかり想像するなら、美月はすでに新しい人生を歩き出している可能性が高い。前向きで無駄な後悔はしないタイプで……変な話、悠より女々しくない。


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