愛は満ちる月のように
(そうね……本当にそうだわ……わかってるけど、でも……悠さんは本当に違うのよ)


自分の思いに苦笑しながら、美月は席を立とうとした。

そのとき、デスクの上にある電話が鳴る。青い内線ランプが点滅していた。


『ミツキ……』


思ったとおり、リカの声が聞こえ、美月は慌てて言った。


『ああ、ごめんなさい。今、行こうと思ったところよ。でも、来客って』

『違うのよ。ファーティリティセンターのミスター・コリガンから電話がかかってるの。携帯に繋がらないって』

『ああ……彼ね』


それは繋がらないのではなく、わざと繋がらないようにしているのだ。普通は気づきそうなものだが……。


(失恋の反動でデートしたのがまずかったわね)


美月は軽くこめかみを押さえる。

もちろん、デートといっても食事に行って公園を歩いた程度だ。お礼代わりに軽いキスには応じたが、それ以降の付き合いは断っているので、美月の気持ちくらいわかりそうなものである。


『例のコーディネーターでしょう? まだ付き合いがあったの?』

『精子バンクの件はとっくに終わってるわよ。リカも知ってるじゃない。ミスター・コリガンには、来客中だから夜にかけ直すと言っておいてもらえる?』

『それはいいけど……コリガン一族って言えば、ニューヨークの資産家で土地持ちじゃない。彼、御曹司なんでしょ? 押さえておいても損にはならないわよ』


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