愛は満ちる月のように
リカの素晴らしい提案を苦笑で受け流しつつ、


『リーカ、私には御曹司も資産家も必要ないわ。生活費もここの維持費にも困ってはいないから。ところで……客って? また誰かの保護者が弁護士でも立ててきた?』


未成年の言うことを真に受けるのは間違っている。彼女の親は非常に立派な人間で経済力もある。


そんなご託を並べつつ、妻の連れ子に性的関係を強要した父親が、弁護士を立ててまで連れ返しに来たことがあった。

美月はその少女が妊娠していることを明かし――本人が出産を希望しているので、正義の所在は子供のDNA鑑定に委ねましょう。と言ったら、一切の連絡を寄越さなくなった。


『いいえ、仕事ではなくて……プライベートよ』

『プライベート? 誰の?』

『あなたに決まってるじゃない。ミスター・イチジョウよ……身分証(パスポート)も確認したから』


どきん、と心臓が強く打った。

そのまま、頭の中が熱くなる。

酸素が充分に回っていないような息苦しさを感じ、口を開くのに声が出てこなかった。


美月が酸欠の金魚のように口をパクパクさせていると……。


『ジュードに部屋まで案内してもらったから、もう着くと思うわ』


その言葉の意味を理解する寸前、ドアがコンコンとノックされた。


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