愛は満ちる月のように
~*~*~*~*~
目の前に悠が立っている。
グレーにライトグレーのストライプが入ったスーツ――彼のワードローブにあっただろうか、と考えるが思い出せない。
少し痩せたような気がする。だが、スタンダードなデザインを日本人離れした体型ですっきりと着こなしていた。
そんな彼を見て、こんなことならちゃんとしたスーツを着て仕事をするんだった、と美月は心の中で舌打ちする。
(黒のジャンスカにポニーテールなんて……しかも化粧らしい化粧なんてしてないし。これじゃハイスクールのときと変わらないじゃない)
用務員のジュードに『飲み物はいらないわ』と言うと、彼は黙って首を傾げて出て行った。
そうなると、いよいよふたりきりだ。
「やあ。元気……そうだね」
「ええ、おかげさまで。……あなたは、お仕事? でも、珍しいわね。ボストンに一条系列の支社なんてあったかしら?」
「いや……」
「じゃあ、ハーバード関係? 同窓会の時期は過ぎてると思うんだけど。それとも、レッドソックス戦でも見に来たの?」
我ながら、よく回る舌だと感心する。いや、回っているのは頭の中身だろうか……。感情がついていっていないので、これを空回りというのだろう。
そんなことまで冷静に分析しながら、美月はゆっくりとテーブルに手をつき、立ち上がった。
キィーッと音がして椅子が後ろにずれる。コロのひとつが上手く回転しないせいだ。買い替えなくては、そんなどうでもいいことばかり頭に浮かんだ。
目の前に悠が立っている。
グレーにライトグレーのストライプが入ったスーツ――彼のワードローブにあっただろうか、と考えるが思い出せない。
少し痩せたような気がする。だが、スタンダードなデザインを日本人離れした体型ですっきりと着こなしていた。
そんな彼を見て、こんなことならちゃんとしたスーツを着て仕事をするんだった、と美月は心の中で舌打ちする。
(黒のジャンスカにポニーテールなんて……しかも化粧らしい化粧なんてしてないし。これじゃハイスクールのときと変わらないじゃない)
用務員のジュードに『飲み物はいらないわ』と言うと、彼は黙って首を傾げて出て行った。
そうなると、いよいよふたりきりだ。
「やあ。元気……そうだね」
「ええ、おかげさまで。……あなたは、お仕事? でも、珍しいわね。ボストンに一条系列の支社なんてあったかしら?」
「いや……」
「じゃあ、ハーバード関係? 同窓会の時期は過ぎてると思うんだけど。それとも、レッドソックス戦でも見に来たの?」
我ながら、よく回る舌だと感心する。いや、回っているのは頭の中身だろうか……。感情がついていっていないので、これを空回りというのだろう。
そんなことまで冷静に分析しながら、美月はゆっくりとテーブルに手をつき、立ち上がった。
キィーッと音がして椅子が後ろにずれる。コロのひとつが上手く回転しないせいだ。買い替えなくては、そんなどうでもいいことばかり頭に浮かんだ。