愛は満ちる月のように
愛していないのなら、一生放っておいて欲しかったのに。美月を侮辱するために、こんなところまでやって来る神経がわからない。


(一生に一度ぐらい、バカになってみようかしら? 泣いてわめいて、あなたは最低だって責めたら……ユウさんもビックリして二度と来ないかも……)


それでも、美月には恋に取り乱すことができない。

好きな気持ちは嘘ではないのに……美月は呼吸を整え、口を開く。


「あるかも……しれないわね」


悠が息を呑むのがわかった。


「あなたに教えてもらったセックスは最高だったから、ボストンに戻っていろいろ試してみたのよ。彼もそのひとり」

「君は……婚外交渉の倫理観にはうるさかったはずだが……」

「そのお説教をあなたがするの? 自分にその資格があると思ってるの?」

「……いや」

「とりあえず、精子バンクの可能性が一番高いわ。いいのよ、別に、どちらでも。私の子供であればいいんだもの。遺伝子上の父親なんて……わからなくても人は生きていけるわ」


美月の言葉を悠は視線も逸らさずに聞いている。

逆に、美月のほうが後ろめたくなって背を向けた。


「美月……僕にできることは?」


その声は静かに震えていた。


「たとえば? あなたに何ができるの?」

「……君が望むことなら、なんでも」


なんでもくれると言いながら、美月が本当に欲しいものはくれないのだ。


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